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GENERAL GUIDE 20

非上場株式の売買価格と税務上の時価が違うとき、裁判例・裁決は何を見ているか

税理士が求めた株価、株価算定書の評価額、相手と合意した売買価格。非上場株式では、同じ株式に三つの異なる金額が示されることがあります。

では、実際に決めた売買価格が税務上の時価と違うとき、その差をどう考えればよいのでしょうか。

売主と買主は取引価格を合意できます。ただし、その価格で契約したことと、税務上も差額について問題が生じないことは別です。 税務上の時価が問題になる場面では、売主・買主それぞれの課税関係を確認し、価格が決まった事情と評価の前提を検討します。

この記事では、最高裁判決一件と、対照的な二つの国税不服審判所裁決を通して、その判断の仕方を見ます。

三つの価格は、何を表しているのでしょうか

取引価格は、具体的な売主と買主が、株式数や支払条件などを踏まえて合意した金額です。

算定価格は、配当還元方式、純資産価額方式、DCF法など、一定の方法と前提から求めた金額です。方法が同じでも、評価する株主の立場や評価時点、用いた資料によって結果は変わります。

税務上の時価は、対象となる税金の規定の下で判断する価額です。相続税や贈与税の評価額が、あらゆる売買の課税関係でそのまま使われるわけではありません。

三つの価格の違い自体は、既存の解説記事で扱っています。ここからは、実際の事件で合意した価格や別の売買実例がどう評価されたかに絞ります。

契約価格も算定価格も75円。それでも評価する立場が争われました

2020年3月24日の最高裁判決では、個人が非上場株式を法人へ1株75円で譲渡しました。この金額は、配当還元方式で計算した額と同じでした。譲渡人の所得税について、所得税法59条の低額譲渡に当たるかが争われました。

原審は、株式を取得した法人の取得後の立場などから配当還元方式による75円の評価を認めました。しかし最高裁は原審の判断を是認せず、事件を差し戻しました。

最高裁は、譲渡所得への課税が譲渡人の下で生じた値上がり益を対象にしていることを重視しました。そのため、この場面では、取得する法人の立場だけでなく、譲渡する個人の会社に対する支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきだと判断しています。

同じ75円が契約書と評価計算の両方に記載されていても、その評価方法が譲渡人の所得税上の時価を求める方法として適切かを確かめる必要がある、という事例です。最高裁自身が、この株式の1株当たりの確定時価を示したわけではありません。DCF法の採否を判断した判決でもありません。

問題の売買価格225円ではなく、別の売買実例が重視されました

1992年1月31日の国税不服審判所裁決は、法人税の事例です。同族会社が保有していた非上場の銀行株式を個人へ1株225円で譲渡しましたが、課税庁は、法人の譲渡収入を計算する際に、これより高い時価を用いました。

この株式には、持株会が会員以外の一般株主から継続的に買い取った売買実例がありました。新聞には店頭気配値も掲載されていました。審判所は、一般株主が株式を自由に処分でき、持株会との間で対等な立場での取引が繰り返されていたことなどから、その価格を客観的な価値の判断資料としました。そして、課税庁が二つの譲渡時期について用いた1株280円、430円を相当と判断しました。

大切なのは、税務上の判断に採用されたのが、問題となった譲渡の225円ではないという点です。それとは別の一般株主との取引が、時価を示す証拠として評価されました。

また、この株式は公開市場外でもある程度の価格が形成され、その後上場しています。取引がまれな同族会社に一件の過去売買があるだけで、この裁決と同じように扱われるわけではありません。

訴訟上の和解価格でも、そのまま時価にはなりませんでした

2025年9月10日の国税不服審判所裁決では、個人が親族の経営する関係会社へ非上場株式を譲渡しました。譲渡人側は、訴訟の中で交渉を尽くして成立した和解価格が、所得税法59条にいう時価だと主張しました。

審判所は、その価格が同族関係者間の訴訟上の和解という個別事情の下で決まった点を重視し、不特定多数の当事者が自由に取引する場合に通常成立する価額とはいえないと判断しました。過去の別の和解による売買についても、問題の譲渡から2年以上前であり、適正な最近の売買実例とは認めませんでした。そのうえで通達に基づく評価を検討し、当該譲渡は低額譲渡に該当すると判断しました。公表された裁決では、具体的な価格は伏せられています。

訴訟上の和解は、当事者が争いを終わらせるために合意するものです。裁判所が株式の税務上の時価を判決で認定したことを意味しません。 この裁決も、あらゆる和解価格を否定したものではありません。どの相手と、どんな事情の下で決まった金額かが問われています。

二つの裁決を比べると、何が見えますか

※スマートフォンでは、表を横にスクロールしてご覧いただけます。

比較する点1992年裁決2025年裁決
対象となった税金譲渡した法人の法人税譲渡した個人の所得税
問題の取引価格1株225円公表資料では金額が伏せられた和解価格
別の価格の資料一般株主との継続的な売買、店頭気配値など2年以上前の別の和解による売買など
価格形成の事情一般株主が自由に処分でき、反復した取引があった同族関係者間の紛争や和解という個別事情があった
判断別の売買実例を重視し、課税庁の280円・430円を相当とした和解価格をそのまま時価と認めず、低額譲渡に該当するとした

対象税目も、株式の取引状況も異なる二件です。この比較は、どちらの価格決定方法が常に正しいかを示すものではありません。その価格が今回の株式の時価を示す資料として、どれほど客観的で、比較に適しているかを考える手掛かりになります。

価格差があるとき、取引前に何を確認しますか

まず、売主と買主がそれぞれ個人か法人かを確かめ、どちらの、どの税金の問題かを分けます。ここで紹介した所得税と法人税の事例を、個人間の贈与税の判断にそのまま使うことはできません。

次に、譲渡時点の株主構成、譲渡株数、取引前後の持株割合を確認します。2020年最高裁判決では、評価する株主の立場が重要な争点となりました。

過去の売買を使うなら、相手との関係、売買の時期、株数や条件、反復性を調べます。1992年裁決の別の売買実例と、2025年裁決の過去の和解売買では、時価の資料としての扱いが異なりました。

算定書がある場合は、評価方法の名前だけでなく、対象となる株式、評価日、会社の資料や事業計画などの前提を確認します。最後に、実際の取引価格と検討した時価に差があるなら、売主・買主それぞれにどのような課税上の問題が生じるかを検討します。

これは「確認事項をそろえれば安全」という基準ではありません。価格を決めた理由を記録することと、その価格が税務上の時価として認められることは、別の判断です。価格決定前に確認する資料も併せて整理しておくと、検討した前提を後から確かめられます。

なお、独立した専門会社の算定を参考に、利害関係のない当事者が種類株式の買戻価格を合意した設定について、国税庁が一定の前提の下で低廉譲渡等に該当しないとの見解を示した文書回答があります。これは設定された事実関係に対する一般的な回答であり、個別の算定書やDCF価格を裁判所が認めた判例ではありません。算定書と交渉価格の関係は、次の記事で詳しく扱います。

まとめ

取引価格、算定価格、税務上の時価が異なっても、それだけで取引価格を変更しなければならないわけではありません。一方で、合意した価格や算定書の数字が、そのまま税務上の時価になるとも限りません。

検討すべきなのは、誰の課税関係か、どの立場から株式を評価するか、比較する売買実例は信頼できるか、算定の前提は今回の取引に合っているかです。そのうえで、合意した価格との差額について、売主と買主の課税関係を確認します。

参考資料

※本記事は、各判決・裁決の事実関係と判断を基に、非上場株式の取引価格を検討する際の論点を説明したものです。個別の取引について評価方法や課税関係を確定するものではありません。

税務評価額は計算できた。しかし、その価格で売買してよいか分からない。

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