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GENERAL GUIDE 21

M&A全体で対価を決めても、受け皿会社に課税される?――株式譲渡と株式交換を分けて判断した判決

M&Aで、オーナー側に現金と買主の上場株式を組み合わせて渡すことがあります。全体の取引として対価を決めていても、途中に設けた会社が対象会社の株式を安く取得したとして、法人税が問題になるのでしょうか。

東京地裁2021年10月29日判決と東京高裁2022年4月14日判決では、受け皿会社が対象会社株式を12億1000万円で取得した取引が争われました。この株式の譲受時の適正価額は25億2538万2600円。裁判所は、差額13億1538万2600円を受け皿会社の受贈益として扱う判断を維持しました。

ただし、この事件で適正価額そのものに当事者間の争いはありません。裁判所がDCF法と税務評価方式を比較して一つの時価を選んだ事例ではありません。争点は、後の株式交換でオーナーが受け取った上場株式を、先の株式譲渡で受け皿会社が支払った対価に含められるか、そして価格差を受け皿会社の法人税上どう扱うかです。

誰が、どの株式を取得したのか

まず、取引に関わる会社とオーナーを分けて見ます。判決の略号を使うと、対象会社はE社、その株式を持っていた売主法人はD社、買主となった受け皿会社はC社、後の株式交換の親会社は上場会社H社です。二人のオーナーFらはD社の株主であり、対象会社株式の譲渡時にはC社の株主でもありました。

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当事者株式譲渡・株式交換での立場
D社(売主法人)対象会社Eの全株式437株をC社へ譲渡
C社(受け皿会社)E株式をD社から取得。その後、H社の完全子会社となる
H社(上場会社)株式交換でC社の全株式を取得
Fら(オーナー)C社株式を保有し、株式交換の対価としてH社株式を受領

C社に係る法人税の更正処分は、後にC社を吸収合併した対象会社E社(改称後のA社)が争いました。したがって、この記事で扱う課税対象はC社による株式の取得です。オーナーFらが受け取った対価についての税額を判断する記事ではありません。

一つの計画の中で、二つの契約が結ばれた

当初の2015年1月の覚書には、対象会社を40億円と評価する構想がありました。同年2月の確約書では、評価額を30億2000万円とし、現金を最低12億1000万円含む対価をオーナー側へ渡す形に変わっています。これらは計画段階の数字です。

実行された取引では、同年3月30日にD社が対象会社Eの全株式をC社へ12億1000万円で譲渡しました。続く4月24日には、H社が株式交換によってC社株式の全部を取得し、C社株主のFらへH社株式88万3400株を交付しました。

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契約対象となる株式対価の動き
D社とC社の株式譲渡対象会社Eの株式C社がD社へ12億1000万円を支払う
C社とH社の株式交換C社株式とH社株式H社がC社株主FらへH社株式88万3400株を交付する

H社株式を受け取ったのはC社でもD社でもなく、C社の株主Fらです。一連のM&Aに組み込まれた契約でも、対象となる株式と対価の受領者が異なります。

受け皿会社について、どの差額が問題になったか

課税庁がC社の受贈益としたのは、C社が取得した対象会社Eの株式について、譲受時の適正価額と契約上の支払額との差額です。

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金額意味
12億1000万円C社がD社へ支払ったE株式の対価
25億2538万2600円E株式の譲受時の適正価額。訴訟当事者間で争いのなかった額
13億1538万2600円適正価額からC社の支払額を引いた差額

差額は、後の交換でFらに交付されたH社株式を、E株式の譲受日のH社株価で換算した額、88万3400株×1489円=13億1538万2600円とも一致します。ただし、金額が一致しても、H社がFらへ交付した株式をC社がD社へ追加で支払った対価とは扱えません。

2月の確約書に記載された30億2000万円も、訴訟で争いのなかった適正価額25億2538万2600円とは異なる数字です。計画段階の企業価値、個別契約の価格、法人税上の検討に用いる適正価額を一つの「M&A価格」にまとめると、この事件の争点が見えなくなります。

納税者は「全契約で見れば贈与はない」と主張した

納税者側は、株式譲渡と株式交換が不可分の取引であり、オーナー側は現金に加えてH社株式も受け取ったのだから、C社の株式取得だけを取り出して収益を認定すべきではない、と主張しました。後の株式交換で渡されたH社株式も含めて、取引全体の対価を見るべきだという考え方です。

別の主張として、法人税法22条2項に基づく受贈益は、時価と対価の差額すべてではなく、「実質的に贈与を受けた」と認められる範囲に限るべきだとも述べました。

前者は二つの契約の対価を合わせられるか、後者は低額譲受けで生じる差額を受贈益とする範囲の問題です。いずれも納税者側の主張であり、裁判所の結論とは分けて読む必要があります。

地裁は、株式譲渡の対価を12億1000万円と判断した

地裁は、C社がD社からE株式を取得した対価を、株式譲渡契約で定めた12億1000万円と認定しました。適正価額25億2538万2600円については当事者間に争いがなく、その差額13億1538万2600円をC社の受贈益として益金に算入すべきだと判断しています。

地裁も、二つの契約が一つのスキームの一環として行われたことは認めています。しかし、先の株式譲渡はD社とC社の間のE株式の取引、後の株式交換はC社とH社の間のC株式とH株式の取引です。契約当事者、対象資産、取引の形が異なり、H社株式の交付先であるFらは先の株式譲渡契約の当事者ではありません。

そのため地裁は、Fらへ交付されたH社株式を、C社がE株式を取得した際の追加の対価とは認めませんでした。複数の契約を結合して収益を認定する場合の余地には触れていますが、同じM&A計画の下で結ばれたというだけでは、二つの契約が当然に一つの取引になるわけではないという判断です。

さらに地裁は、この場面の法人税法22条2項による受贈益を「実質的に贈与を受けた金額」に限定する納税者の解釈も退けました。完全支配関係にある内国法人間の受贈益に関する同法25条の2の規定を、この取引へ当てはめることも認めていません。

高裁は、C社に生じた価値について何を補足したか

高裁は控訴を棄却し、地裁判決の理由を一部補正しました。C社はE株式を買うために12億1000万円を借り入れ、E株式以外に特段の資産はなく、その間に別の事業活動で純資産が増える事情もありませんでした。それでも株式交換では、C社の株主Fらへ13億1538万2600円相当のH社株式が交付されています。

高裁は、こうした資産・負債と交換対価の関係も、C社が低額譲受けによって差額に相当する価値を得たことを示すものとして説明しました。これは、H社株式がC社へ交付されたという判断ではありません。H社株式を受け取ったのは、あくまでC社の株主Fらです。

取引前には、何を確認すればよいか

この判決を踏まえて複数の契約を使うM&Aを検討するときは、まず契約ごとの表を作ると価格差を把握しやすくなります。

  1. 株式と当事者を分ける。 対象会社株式を取得する法人と、後の株式交換で株式を受け取る人を特定する。
  2. 対価の支払先・受領者を記録する。 現金と株式のそれぞれについて、どの契約に基づき誰から誰へ渡るかを確認する。
  3. 価格と評価日を対応させる。 基本合意の予定額、契約額、譲受時の適正価額、上場株式の換算額を、対象株式と日付を付けて並べる。
  4. 課税される人と税目を分ける。 受け皿会社の法人税、売主法人やオーナー側の課税関係を、それぞれ別に検討する。

基本合意書、株式譲渡契約、株式交換契約、価額算定資料、資金の流れが分かる記録を照らし合わせることになります。これは本判決から導いた実務上の確認方法であり、資料をそろえれば課税されないという安全基準ではありません。取引価格・算定価格・税務上の時価の基本的な関係も併せて確認できます。

この判決が答えていないこと

この訴訟ではE株式の適正価額自体は争われていません。したがって、DCF法と他の方式のどちらを採用すべきかを決めた判決ではありません。また、売主法人やオーナー個人の最終的な課税額、一般の個人間売買、すべてのM&Aで複数契約を必ず別々に扱うべきかについても、この判決の結論をそのまま当てはめることはできません。

一連の取引として交渉したとしても、途中の会社が何を取得し、その会社が誰へ何を支払ったかを確認する必要があります。総額だけで価格差を説明する前に、どの当事者の、どの契約に差額が生じているかを明らかにすることが、この事件から得られる実務上の視点です。

参考資料

※本件は、最高裁判所第二小法廷2022年11月11日決定により、上告が棄却され、上告審として受理されず、確定しています。最高裁が本件の税務上の争点について新たな実体判断を示したものではありません。

税務評価額は計算できた。しかし、その価格で売買してよいか分からない。

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