GENERAL GUIDE 23
売買価格4,250万円、税務署の評価は約2億3,369万円――類似業種比準額による課税が取り消された判決
非上場株式を売買するとき、税務上の評価額と実際の売買価格が大きく異なることがあります。税務署が類似業種比準方式で高い株価を計算した場合、それより低い価格での売買は必ず否定されるのでしょうか。
大分地裁平成13年9月25日判決では、非上場株式の売却について、税務署が売主に行ったみなし譲渡課税が取り消されました。裁判所は類似業種比準方式そのものを否定したのではありません。その方式による金額を、この取引の時価として採用できるかを検討しました。
4,250万円の売買に対し、税務署は約2億3,369万円と評価した
この事案では、個人が保有する非上場株式を法人に売却しました。税務署が認定した対象取引の売却額は4,250万円です。
これに対し、税務署は類似業種比準方式によって株式の時価相当額を2億3,368万9,000円と計算しました。売却額との差は1億9,118万9,000円です。税務署は、売主が株式を著しく低い価格で法人に譲渡したとして、時価で譲渡したものとみなす所得税の課税を行いました。
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| 比較した金額 | 金額 |
|---|---|
| 株式の売却額 | 4,250万円 |
| 税務署が認定した時価相当額 | 2億3,368万9,000円 |
| 両者の差額 | 1億9,118万9,000円 |
売却額は税務署の評価額の約18%です。しかし、評価方式によって高い金額が出たというだけで、その金額が本件取引の時価と認められるわけではありませんでした。
買主は会社の支配権を取得する立場ではなかった
裁判所が着目したのは、同族会社の株式を少数株主が取得する取引だったという点です。
会社を支配できる株主にとっての株式と、経営への影響力が乏しい少数株主にとっての株式では、取得によって得られる利益が異なります。裁判所は、この取引の買主について、配当への期待を超える利益を得る立場にはないと考えました。
また、この株式には売買実例がありました。純資産価額方式や類似業種比準方式による金額と、売買実例価額や配当還元方式による金額との間には、著しい差がありました。
裁判所は、取引の事情と売買実例を踏まえ、税務署が純資産価額方式や類似業種比準方式に依拠して算定した時価を合理的とは認めませんでした。その結果、売主側に対する課税処分は取り消され、この判決は確定しました。
類似業種比準方式そのものが否定されたわけではない
裁判所は、純資産価額方式と類似業種比準方式について、評価方法としては一応の合理性があると認めています。
問題とされたのは、それらの方式による金額を、本件の少数株主への売買にそのまま用いたことです。取引の事情や売買実例があり、他の方法による金額と著しく異なるにもかかわらず、税務署の算定がこの取引の時価として合理的だとは認められませんでした。
したがって、この判決を「類似業種比準方式は使えない」と読むのは正確ではありません。評価方法には合理性があっても、個々の取引に当てはめた金額まで当然に正しいとは限らない、という事例です。
なお、この事件でDCF法による評価が採用されたわけではありません。
売主側の処分は取り消されたが、買主側は別に判断された
この取引では、株式を購入した法人に対しても課税が行われました。税務署は、類似業種比準方式による評価額と購入額との差を、買主法人が低額で株式を取得したことによる利益として扱いました。
売主側の課税処分が取り消された後、買主法人は、その判決を理由に自社の課税について更正を求めました。しかし、国税不服審判所は買主法人の更正請求を認めませんでした。
同じ売買に関する争いでも、売主側の所得税処分の取消しが、買主側の法人税処分の取消しに直結したわけではありません。この判決で取り消されたのは、売主側に対する課税処分です。
現在の取引を考える際の注意点
平成13年の大分地裁判決とは別の事件で、最高裁は令和2年3月24日、非上場株式の低額譲渡における売主側の所得税上の時価を判断しました。
その事件の原審は、買主が配当還元方式の対象となる株主であることを理由に、売主側の時価を配当還元価額としました。最高裁は、この判断に所得税法59条の解釈適用を誤った違法があるとして、原審判決を破棄し、審理を差し戻しました。
このため、大分地裁判決だけを根拠に「買主が少数株主なら、売主の所得税上の時価も配当還元額でよい」と考えることはできません。現在の取引については、売主側の時価をどう評価するか、現行の通達と最高裁判決を踏まえて検討する必要があります。
一方、税務署の評価額と実際の売買価格に差があるとき、差額だけで取引価格の当否を決められないという問題は残ります。売主と買主の関係、持株割合、議決権、売買実例、価格決定の経緯、評価方式によって差が生じる理由を確認することが重要です。
税務上の評価額と売買価格が異なるときは、まず、どの税金について、誰の立場から、何を時価として判断するのかを整理する必要があります。
参考資料
税務評価額は計算できた。しかし、その価格で売買してよいか分からない。
この株価で取引してよいか相談する
誰が誰へ、何のために株式を動かすのかを確認し、税務評価、DCF等による株式価値、実際の提示価格の関係を整理します。
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