GENERAL GUIDE 05
税務評価とDCFが違うとき、
非上場株式の売買価格は
どう決める?
税務評価では一株500円。DCFでは一株5,000円。相手からの提示価格は一株1,400円。
この場合、どの金額で売買すればよいのでしょうか。
非上場株式には、市場で確認できる一つの株価がありません。税務評価、DCF等による株式価値、実際の提示価格は、それぞれ目的も前提も異なります。
したがって、一つの評価額を機械的に選ぶことも、三つの金額を単純に平均することもできません。
誰が誰から何株を取得し、取引後に何を得るのかを確認したうえで、それぞれの価格が何を表しているか、なぜ差が生じているかを整理して、予定する取引価格を検討します。
株価を選ぶ前に、取引の内容を確認します
取引価格を検討するときは、評価方法より先に取引の全体像を確認します。
主な確認事項は、次のとおりです。
- 売主と買主は個人か法人か
- 買主は発行会社自身か
- 売主と買主に親族関係や支配関係があるか
- 何株を、いくらで売買する予定か
- 取引前後の持株割合はどう変わるか
- 株式を動かす目的は何か
- すでに提示価格や合意価格があるか
個人間の売買、個人と法人の売買、法人間の売買、会社による自己株式取得では、確認すべき課税関係が異なります。
また、独立した第三者間の交渉で決まった価格と、親族や同族会社などの関係者間で決めた価格では、価格の説明力も異なります。
まず取引当事者と取引目的を確定し、その取引に必要な株価を特定します。
三つの価格は、見ているものが違います
税務上の株価
相続税や贈与税では、類似業種比準価額、純資産価額、配当還元価額などを使って非上場株式を評価します。
ただし、相続税・贈与税のために計算した株価が、そのまま売買時の税務上の時価になるとは限りません。
売主と買主が個人か法人か、両者にどのような関係があるかによって、確認すべき税務上の取扱いが変わることがあります。
DCF等による株式価値
DCFは、会社が将来生み出すキャッシュフローから経済的な価値を求める方法です。
会社の将来性を反映できる一方、事業計画、割引率、継続価値、非事業用資産などの前提によって結果が変わります。
会社全体の株式価値を株式数で割った金額が、そのまま少数株式の売買価格になるとも限りません。
実際の提示価格
提示価格には、持株割合、支配権、換金可能性、買主固有のシナジー、交渉経緯などが反映されることがあります。
税務評価やDCFと異なる価格でも、その差に合理的な理由があれば、直ちに誤った価格とはいえません。
取引後に買主が何を得るかが重要です
同じ会社の一株でも、誰が何株取得するかによって価値の意味が変わります。
例えば、株式の取得によって買主が、次のような効果を得る場合があります。
- 議決権の過半数を取得する
- 特別決議を成立させられる
- 重要な決議を阻止できる
- 少数株主を集約できる
- 完全子会社化へ近づく
このような株式には、配当を受け取る権利だけでは表せない支配権や拒否権としての意味があります。
一方、少数株主は通常、経営方針や配当を単独で決められません。非上場株式には市場がなく、希望する時期や価格で売却できないこともあります。
したがって、会社全体の価値だけでなく、取引対象となる株式の割合と、取得後に買主が得る権利や経済的効果を確認する必要があります。
価格差が生じた理由を分解します
例えば、次の三つの数字が出ているとします。
- 税務評価額:一株500円
- DCFによる株式価値:一株5,000円
- 相手からの提示価格:一株1,400円
この場合、最初に確認するのは金額の大小ではなく、それぞれの算定目的と前提です。
税務評価額が低い理由として、評価方式、会社規模、配当実績などが考えられます。
DCFが高い理由として、将来の利益成長、低い割引率、多額の現預金や投資有価証券などが考えられます。
提示価格が両者の間にある理由として、少数株式としての制約、買主が得る支配権、過去の買取実績、交渉条件などが考えられます。
主に次の事項を比較します。
- 各価格は誰の立場から求めたものか
- どの評価方法と前提を使っているか
- 将来の収益力をどこまで反映しているか
- 現預金、土地、有価証券をどう扱っているか
- 借入金や簿外債務を反映しているか
- 少数株式としての制約を考慮しているか
- 支配権やシナジーが含まれているか
- 過去の売買実績と整合しているか
価格差を分解すると、どの前提に争いがあり、どの数字を中心に検討すべきかが見えやすくなります。
安すぎる価格にも、高すぎる価格にも注意が必要です
非上場株式は、当事者が合意すれば何円で売買しても税務上問題がない、というものではありません。
時価より著しく低い価格で取引した場合には、買主への贈与、受贈益、売主に対する時価譲渡などが問題になる可能性があります。
反対に、著しく高い価格で取引した場合も、売主への贈与や利益供与などが問題になることがあります。
ただし、「税務評価額と違う」という理由だけで、直ちに高すぎる、安すぎると判断されるわけでもありません。
税務上確認すべき価格を把握したうえで、予定価格との差にどのような経済的な理由があるかを検討します。
中心価格と検討できる範囲を整理します
最終的な売買価格は、売主と買主の交渉と合意によって決まります。
専門家が一つの「絶対に正しい価格」を決められるものではありません。
一方で、複数の数字を示して、「あとは当事者で決めてください」とするだけでも、依頼者の疑問は解決しません。
税務評価、DCF等による株式価値、提示価格を比較し、条件と資料が揃えば、
「この条件では○○円を中心に検討します。検討できる範囲は○○円から○○円で、主な理由と注意点はA・B・Cです」
というところまで整理します。
予定価格を決めた後は、主に次の資料を残します。
- 税務評価やDCF等の株価算定資料
- 株主構成と取引前後の持株割合
- 提示書面や価格交渉の記録
- 価格差と採用価格の理由を整理した資料
- 取締役会・株主総会等の議事録
- 株式譲渡契約書などの取引書類
市場価格がないからこそ、取引前に検討し、なぜその価格を選んだのかを説明できる状態にしておくことが重要です。
結局、いくらで取引すればよいのか
非上場株式は、税務評価額で売らなければならないわけではありません。
しかし、何円でもよいわけでもありません。
一つの評価方法だけで結論を出すのではなく、次の事項を整理して、今回の取引価格を検討します。
- 税務上確認すべき株価
- 会社や株式の経済的価値
- 実際の提示価格
- 取引によって買主が得る権利や効果
重要なのは、最も低い数字や最も高い数字を選ぶことではありません。
今回の取引条件に照らして、採用する価格とその理由を説明できることです。
参考資料
※本記事は、非上場株式の売買価格および税務上の取扱いに関する一般的な考え方を説明したものです。実際の課税関係や適用される評価方法は、売主、買主、株主構成、取引目的、評価時点等によって異なります。
税務評価とDCFが大きく違う。相手から提示された価格の根拠が分からない。結局、いくらで取引すればよいのか判断できない。
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