GENERAL GUIDE 13
非上場株式は「いつの時点」の株価で売買するのか―評価日と取引日の考え方
非上場株式を売買するとき、税務上確認する時価は、原則として株式を譲渡した時点の価額です。
ただし、株価の算定作業では、決算日や月末などを評価基準日として計算することがあります。また、契約締結日、株式譲渡日、代金決済日、株主名簿の名義書換日は、必ずしも同じではありません。
そのため、「直近の決算書で計算した株価だから問題ない」「以前作った株価算定書があるから、その金額で売買できる」とは限りません。
重要なのは、次の3点を分けて考えることです。
- いつの時点の会社を評価したのか
- 実際に株式を譲渡するのはいつか
- 税務上の時価と実際の売買価格をどのように検討したか
1.非上場株式の価格には「基準日」が必要
上場株式には、証券市場で日々形成される市場価格があります。これに対して、非上場株式には、通常、そのまま参照できる市場価格がありません。
そこで、会社の利益、純資産、将来の収益見込み、類似する上場会社の株価などを基に株式価値を検討します。
これらの情報は、時間とともに変わります。
例えば、前期決算では利益が出ていても、その後に主要取引先を失い、足元の業績が悪化していることがあります。反対に、決算後に大口受注を獲得し、将来の利益が増える見込みになっている場合もあります。
このほかにも、次のような変化が株価に影響する可能性があります。
- 不動産や有価証券の取得・売却
- 多額の借入れや返済
- 配当の実施
- 増資や株式分割
- 自己株式の取得
- 訴訟や偶発債務の発生
- 事業計画や将来見通しの変更
したがって、「この会社の株価はいくらですか」という質問には、先に「何月何日現在の株価を求めるのですか」という確認が必要です。
2.まず5つの日付を区別する
非上場株式の取引では、少なくとも次の5つの日付を確認します。
評価基準日
株価算定上、いつの時点の会社を評価するかを示す日です。
契約締結日
売主と買主が株式譲渡契約を締結する日です。
株式譲渡日・クロージング日
契約に基づいて、株式譲渡を実行する日です。
代金決済日
買主が売主へ株式の譲渡代金を支払う日です。
株主名簿の名義書換日
対象会社の株主名簿を、売主から買主へ書き換える日です。
小規模な親族間売買などでは、これらを同日に行うこともあります。
一方、M&Aでは、先に株式譲渡契約を締結し、譲渡承認、必要書類の準備、前提条件の充足などを確認した後、別の日にクロージングすることがあります。
経済産業省の「中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料」に掲載された契約書サンプルでも、契約締結とは別にクロージング日を定め、株式の譲渡、代金の支払い、書類の交付、名義書換を行う構成が示されています。
したがって、契約書の日付だけを見て、税務上の譲渡時点を判断することはできません。契約条項と実際に行われた手続の両方を確認する必要があります。
3.税務上は原則として「譲渡時点」の時価を確認する
個人が法人に非上場株式を著しく低い価額で譲渡した場合には、所得税法59条によるみなし譲渡課税が問題になることがあります。
所得税法施行令169条は、著しく低い価額に該当するかどうかについて、「資産の譲渡の時における価額」を基準にしています。
また、所得税基本通達59-6は、株式を贈与または低額譲渡等した場合の「その時における価額」の算定方法を定めています。一定の条件の下では、財産評価基本通達の取引相場のない株式に関する規定の例により算定します。
このように、所得税上問題となるのは、原則として株式を譲渡した時点の時価です。
ただし、非上場株式の移転であれば、すべて同じ税務処理になるわけではありません。
少なくとも、次の取引は分けて検討します。
- 個人から法人への譲渡
- 個人間の譲渡
- 法人間の譲渡
- 発行会社による自己株式の取得
- 株式の贈与
- 株式の相続
売主と買主が個人か法人か、発行会社自身が買い取るのか、売買か贈与かによって、関係する税目や課税関係が変わります。
そのため、「非上場株式だから相続税評価額を計算すればよい」とは限りません。
4.税務評価額と実際の売買価格は同じとは限らない
非上場株式の売買では、税務上問題となる時価を確認するとともに、当事者が合意する実際の売買価格を検討します。
この2つは、常に同じ金額になるわけではありません。
財産評価基本通達による評価額は、相続税や贈与税の課税価格を計算するための税務上の評価額です。また、所得税基本通達59-6により、一定の株式譲渡における時価算定で参照されることもあります。
一方、実際の売買価格は、取引目的や交渉条件などにも影響されます。
例えば、次のような事情です。
- 経営権を取得できる株式数か
- 少数株式の売買か
- 発行会社や他の株主による買取りか
- 第三者への会社売却か
- 将来の利益やキャッシュ・フローをどのように見込むか
- 会社が保有する現預金、不動産、有価証券等をどう評価するか
- 譲渡後の役員退任や債務保証解除など、価格以外の条件があるか
したがって、税務評価額をそのまま売買価格にする場合でも、その評価額を採用することが今回の取引に適しているかを確認する必要があります。
反対に、税務評価額と異なる価格で売買する場合には、なぜその価格になったのかを説明できるようにしておくことが重要です。
5.決算日から譲渡日までに何を確認するか
株価算定では、直前期の決算書を基礎資料として使用することがあります。
しかし、税務上問題となるのが譲渡時点の時価である以上、決算日から譲渡日までの変化を無視してよいとは限りません。
財産評価基本通達184では、類似業種比準価額について、直前期末の翌日から課税時期までの間に配当金交付や株式の割当て等の効力が発生した場合の修正方法が定められています。
また、純資産価額方式では、課税時期における資産、負債、発行済株式数が計算の基礎になります。
そのため、決算日後に、少なくとも次の変化がなかったかを確認します。
- 配当を実施していないか
- 増資、株式分割、自己株式取得等を行っていないか
- 多額の資産を取得または売却していないか
- 多額の借入れや返済を行っていないか
- 重要な債権が回収不能になっていないか
- 月次業績が大きく変化していないか
- 大口受注や主要取引先の喪失がなかったか
- 災害、訴訟、債務保証の履行などが発生していないか
ただし、これらの事象があれば、必ず一定の算式で株価を修正するという意味ではありません。
どの評価方法を用いるか、その事象が会社価値にどの程度影響するかを個別に判断します。
6.古い株価算定書には一律の有効期限がない
過去に株価算定書を作成している場合、その金額を今回の取引にも使えるかが問題になります。
株価算定書について、「作成から6か月で無効になる」「1年以内ならそのまま使える」といった一律の有効期限が、法令や通達で定められているわけではありません。
したがって、作成日からの経過期間だけで判断することはできません。
確認すべきなのは、過去の算定前提と現在の会社の状態が一致しているかです。
少なくとも、次の項目を確認します。
- 株価算定書の評価基準日
- 算定書の作成目的
- 今回の株式譲渡予定日
- 算定に使用した決算書や試算表
- 評価基準日後の業績
- 事業計画や将来見通し
- 資産・負債の増減
- 配当、増資、自己株式取得等
- 株主構成や発行済株式数
- 今回の売買株式数と議決権割合
これらに重要な変化がなければ、過去の算定結果を今回の価格検討に利用できる可能性があります。
一方、業績、財務内容、資本構成、取引目的などが変わっている場合には、算定結果の更新または再算定を検討する必要があります。
問題は、算定書が古いこと自体ではありません。算定書が現在の取引を説明できる内容になっているかどうかです。
7.価格だけでなく「なぜその価格にしたか」を残す
非上場株式の売買では、最終的な1株当たりの価格だけを契約書に記載して終わりにしないことが重要です。
価格決定資料には、少なくとも次の事項を整理します。
- 評価基準日
- 契約締結日
- 株式譲渡日・クロージング日
- 代金決済日
- 使用した決算書や試算表の基準日
- 評価基準日後に発生した重要な事象
- 採用した評価方法
- 算定結果から売買価格を決めた過程
- 価格調整の有無と内容
- 税務評価額と取引価格が異なる場合の理由
過去の株価算定書を利用した場合には、現在も利用できると判断した理由を残します。
直前期の決算書を基礎にした場合には、決算日から譲渡日までの間に、株価へ重要な影響を与える変化がなかったかを確認した資料も残します。
こうした記録は、税務上の説明だけを目的とするものではありません。
売主と買主の間で後日認識が食い違った場合や、他の株主から価格決定の理由を尋ねられた場合にも、当時の判断過程を確認する資料になります。
まとめ
非上場株式の売買では、原則として譲渡時点の時価を確認します。
ただし、実際の株価算定では、決算日や月末などを評価基準日として計算することがあります。その場合には、評価基準日から実際の譲渡日までに生じた重要な変化を確認する必要があります。
また、税務評価額と実際の売買価格は、常に同じではありません。
次の3点を分けて整理することが重要です。
- いつの時点の会社を評価したのか
- 税務上、いつの時点の時価が問題になるのか
- どのような理由で実際の売買価格を決めたのか
特に、次のような場合は、過去の株価や決算書の数字だけで判断せず、取引前に確認する必要があります。
- 株価算定後に時間が経過している
- 決算後に業績や財務内容が変わった
- 税務評価額と異なる価格で売買する
- 親族、同族会社、発行会社との取引である
- 一部株式の売買と経営権の移転が関係している
- 契約締結日と株式譲渡日が離れている
非上場株式の価格は、算定方法だけで決まるものではありません。取引の当事者、目的、時点、株式数、会社の状況を整理した上で、税務上の時価と実際の取引価格を検討する必要があります。
※本記事は一般的な考え方を説明するものです。個別の取引に適用される税務上の取扱い、評価方法および適切な確認資料は、売主・買主の属性、株主構成、取引条件その他の事情によって異なります。