TAX VALUE × DCF
税務評価とDCFは、
なぜこんなに違うのか
ここまで差があると、どれかの計算が間違っているように感じるかもしれません。しかし、この三つは、同じ問いに対する三つの答えではありません。
なぜ三つの数字が違うのかを理解し、今回の取引では、どの株価をどのように使うのかを考えることが大切です。
300円と5,000円は、
同じものを測っていない
300円が一定の少数株主について配当還元方式で算定された税務評価額であれば、その数字は、株主の立場や配当を基礎とした税務上の評価です。
一方、5,000円がDCFによって算定された1株当たりの株式価値であれば、その数字には、会社が将来生み出すと予測されるキャッシュ・フローや、保有する現預金、有利子負債などが反映されています。
同じ会社の同じ1株でも、算定の目的、評価する立場、対象、時点、将来予測や前提が違えば、結果も変わります。
税務評価300円とDCF5,000円を、
そのまま上下だけで比較することはできません。
DCFは、会社の将来から
株式価値を考える
DCFは、会社が将来生み出すと予測されるキャッシュ・フローを基礎として価値を算定する方法です。事業計画をもとに将来キャッシュ・フローを見積もり、事業のリスクを反映した割引率によって現在価値へ換算します。
ただし、DCFで最初に求める価値と、株主が持つ1株の価値は同じではありません。
事業価値
将来キャッシュ・フローから事業の価値を算定する
企業価値
事業以外の資産などを加えて会社全体の価値を考える
株主価値
有利子負債などを控除して株主に帰属する価値を求める
1株価値
株主価値を株式数で割って1株当たりの価値を求める
多額の余剰現預金や投資有価証券を保有する会社では、事業価値だけを見ていると、株主に帰属する価値を十分に捉えられないことがあります。反対に、多額の借入金がある会社では、事業価値が高くても株主価値は低くなる可能性があります。
また、DCFの結果は、事業計画、割引率、継続価値、余剰現預金、非事業用資産、有利子負債、発行済株式数などの前提によって変わります。
どのような前提から5,000円になったのか。前提を変えると、評価額がどの程度動くのか。一つの点ではなく、評価幅として確認する必要があります。
DCFの計算結果だけでなく、その前提と税務評価・提示価格との関係を確認します。
経済価値は、
DCFだけで見るものではない
類似会社法
事業内容や規模などが類似する上場会社の市場評価を参考にします。EBITDA、営業利益、当期純利益などに対し、市場がどの程度の倍率を付けているかを確認します。
税務上の類似業種比準方式も上場会社の株価を参考にしますが、類似会社法とは目的も計算方法も異なります。
純資産から見た価値
現預金、有価証券、不動産などを多く保有する会社では、将来の収益力だけでなく、保有資産から見た価値も重要です。
帳簿上の純資産を株式数で割るだけではなく、資産の含み損益、回収可能性、簿外債務なども確認します。
DCF、類似会社法、純資産から見た価値は、それぞれ異なる角度から会社を見ています。
複数の方法を使う目的は、平均値を出すことではありません。
なぜ評価結果に差が出たのかを確認することです。
税務評価と企業価値評価は、
役割が違う
税務評価は、相続、贈与、低額譲渡、高額譲渡などの課税関係を検討するためのものです。市場価格のない非上場株式について、課税上の公平性、計算の簡便性、結果の予測可能性を確保するため、一定の評価ルールが設けられています。
一方、DCF、類似会社法、純資産法などの企業価値評価は、会社や株式にどれだけの経済価値があるのかを検討するために行います。
「税務評価は間違っていて、DCFが正しい」という関係ではありません。
反対に、税務評価は公的なルールだからDCFより正しい、という関係でもありません。どちらを使うかという二者択一ではなく、今回の取引で、それぞれの数字を何のために確認するのかを整理します。
売る側の1株と、買う側が取得する1株では
意味が違う
少数株主が持つ1株と、大株主が取得する1株では、その株式が持つ意味が異なることがあります。
少数株主は、経営方針や配当方針を自ら決めることが難しく、非上場株式であるため自由に売却することも容易ではありません。一方、大株主は、その株式を取得することによって持株割合を高め、会社に対する支配力を強めることがあります。
- 過半数を確保する
- 特別決議に必要な持株割合へ近づく
- 他の株主の影響を小さくする
- 完全子会社化へ近づく
- 経営上の意思決定を行いやすくする
この場合、少数株主にとっての1株は、単独では経営へ影響を与えにくい株式です。しかし、買主にとっての1株は、支配権の取得や強化につながる株式かもしれません。
そのため、少数株主側の税務評価額が300円であっても、買主が2,000円を提示すること自体が直ちに不自然とは限りません。ただし、買主にとって必要な株式だからといって、何円で買っても問題がないわけではありません。
取得前後の持株割合、確保できる権利、他の株主への提示価格、第三者算定、シナジー、交渉経緯を確認し、提示価格に反映された要素を整理する必要があります。
DCFが5,000円でも、
取引価格が5,000円とは限らない
DCFは、一定の事業計画、割引率、継続価値などを前提として算定した経済価値です。実際の取引価格には、評価結果以外の事情も反映されます。
評価結果
- DCFによる評価幅
- 類似会社法による評価
- 純資産から見た価値
- 売主側・買主側の税務上の時価
取得する効果
- 取得する株式数
- 取引前後の持株割合
- 支配権への影響
- 買主が見込むシナジー
交渉・契約条件
- 売却・取得を希望する理由
- 他の株主への提示価格
- 支払時期や支払方法
- 価格交渉の経緯
DCFは、取引価格を考えるための重要な材料です。しかし、DCFが取引価格を自動的に決めるわけではありません。
複数の株価の「違い」を
説明できるようにする
税務評価300円、DCF5,000円、提示価格2,000円という三つの数字が出たときに、どれか一つを選ぶだけでは、取引価格を検討したことにはなりません。
- 税務評価300円は、誰の、何のための評価か
- DCF5,000円は、どの事業計画と前提から算定されたか
- 余剰現預金、有価証券、有利子負債などはどう反映されたか
- 売主と買主にとって、その株式はどのような意味を持つか
- 取得によって持株割合や支配権がどう変わるか
- 提示価格2,000円には何が反映されているか
- 税務評価額と提示価格の差をどのように説明できるか
- 予定価格について、どのような見解を示せるか
複数の評価方法を使う目的は、すべての数字を一致させることではありません。
違いを消すのではなく、
違いが生じた理由を説明できるようにすることが重要です。
計算だけでは、取引価格は決まりません。税務評価、企業価値評価、実際の提示価格を一枚の地図に置き、今回の取引では、どの株価をどのように使うのかを整理します。
税務評価とDCFが大きく違う。提示された価格を受け入れてよいか分からない。