GENERAL GUIDE 06
非上場株式の「時価」は一つではない
―税務評価額・企業価値・
売買価格の違い
非上場株式の売買や贈与を検討すると、同じ株式について複数の価格が示されることがあります。
税理士が計算した価額、企業価値評価で算定された価額、買い手から提示された価格が、それぞれ異なることも珍しくありません。
この場合、どれか一つが正しく、ほかが誤っているとは限りません。非上場株式の価格は、誰が、誰との間で、何のために評価するのかによって変わるからです。
取引価格を検討するときは、金額だけを比較するのではなく、それぞれの価格が何を目的として算定されたものかを確認する必要があります。
なぜ同じ株式に複数の価格が出るのか
上場株式には、市場で成立している株価があります。一方、非上場株式には、日々参照できる市場価格がありません。
そのため、会社の利益、純資産、将来性、配当、持株割合、経営権への影響などを踏まえて価格を検討します。
さらに、評価の目的も一つではありません。
- 相続税や贈与税の申告に使用する
- 株主間や親族間で株式を売買する
- 会社が株主から自己株式を取得する
- M&Aにより会社の経営権を譲渡する
目的が異なれば、適用される税務上の取扱いや、価格に反映させる要素も異なります。
税務上の時価も一種類ではない
「税務評価額」と聞くと、税法上の正しい価格が一つ決められているように思われるかもしれません。しかし、税務上確認すべき価額も、取引や税目によって異なります。
相続や贈与では、原則として財産評価基本通達に基づき、会社規模、業種、純資産、利益、配当、株主の立場などを考慮して株式を評価します。
一方、株式の売買では、売り手と買い手が個人か法人か、同族関係があるか、会社自身が買い取るのかなどによって、所得税・法人税・贈与税上の検討事項が変わります。
したがって、相続税や贈与税の計算で使用した評価額を、そのまま売買価格として採用できるとは限りません。
税務上の問題を検討するときは、「評価額はいくらか」だけでなく、「誰が誰に、どのような目的で株式を移転するのか」を先に確認することが重要です。
DCF法などによる経済的な株式価値
M&Aや投資判断では、会社が将来生み出す利益やキャッシュフローなどから、株式の経済的な価値を算定することがあります。
代表的な方法には、DCF法、類似会社比較法、時価純資産法などがあります。どの方法が適しているかは、会社の事業内容、成長性、保有資産、収益の安定性や評価目的によって異なります。
これらの方法で算定した価額は、交渉や意思決定の重要な材料になります。ただし、その価額が税務上もそのまま認められるとは限りません。
各評価方法の選び方や計算上の注意点については、別の記事で詳しく説明します。
実際の提示価格・合意価格
実際の取引価格は、計算だけで自動的に決まるものではありません。
買い手が期待する事業上の効果、売り手の売却事情、資金調達の条件、交渉力、競合する買い手の有無なども価格に影響します。
そのため、税務上の評価額や企業価値評価額と、実際の提示価格・合意価格が異なることがあります。
ただし、当事者間で合意した価格であれば、必ず税務上も問題がないというわけではありません。特に親族間、同族会社と株主との間、会社による自己株式の取得などでは、時価との差によって課税関係が生じる可能性があります。
持株割合や評価時点によっても変わる
同じ会社の株式でも、取得する株式数や取得後の持株割合によって価値が変わることがあります。
経営を支配できる株式と、経営にほとんど影響を与えられない少数株式とでは、買い手にとっての意味が異なるためです。
また、価格は評価時点にも左右されます。決算、重要な契約、業績の変動、資産の売却などがあれば、短期間でも会社の状況は変わります。
過去に同じ株式を売買した実績があっても、時期や取引条件が異なれば、その価格を今回の取引へそのまま使用できるとは限りません。
三つの価格は目的を確認して比較する
非上場株式の価格は、次のように整理できます。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールしてご覧いただけます。
| 価格の種類 | 主な目的 | 主に反映される要素 |
|---|---|---|
| 税務上の価額 | 申告や課税関係の検討 | 税法、通達、当事者関係、取引形態 |
| 経済的な株式価値 | 投資判断やM&Aの検討 | 収益力、資産、将来性、リスク |
| 提示価格・合意価格 | 実際の取引 | 交渉条件、売却事情、買収効果、資金条件 |
これは違いを理解するための大まかな整理です。税務上の価額にも複数の取扱いがあり、経済的な価値も採用する評価方法や前提によって変わります。
複数の価格が示されたときは、金額の高低だけでなく、評価目的、計算方法、前提条件、評価時点を比較することが大切です。
取引前に整理しておきたい事項
非上場株式の取引価格を決める前に、少なくとも次の事項を確認します。
- 売り手と買い手は個人か法人か
- 両者に親族関係や支配関係があるか
- 取引の目的は何か
- 何株を移転し、持株割合がどう変わるか
- 会社の経営権にどのような影響があるか
- どの時点の会社情報で評価するか
- 過去の取引価格や第三者からの提示価格があるか
- 採用する価格の根拠を説明できるか
これらを整理しないまま金額だけを決めると、後から税務上の時価との違いが問題になる可能性があります。
まとめ
非上場株式には、あらゆる場面で共通する一つの「正解価格」があるわけではありません。
税務上の価額、経済的な株式価値、実際の提示・合意価格は、それぞれ目的と前提が異なります。重要なのは、どの価格を採用したかだけでなく、その価格が今回の取引に適している理由を説明できることです。
当事者の関係、取引目的、持株割合、評価時点などを確認し、必要に応じて複数の評価を比較したうえで取引価格を検討します。
当事務所では、非上場株式の評価だけでなく、取引の組み立てや税務上の取扱いを含めて検討しています。「提示された株価で取引してよいか」「相続税評価額を売買にも使えるか」などでお悩みの場合は、ご相談ください。