GENERAL GUIDE 04
DCF法とは?
計算した株式価値で
売買すればよいのか
DCFでは一株5,000円。税務評価では一株500円。相手からの提示価格は一株1,400円。
この場合、どの金額で売買すればよいのでしょうか。
DCF法は、会社が将来生み出すキャッシュフローから企業価値や株式価値を算定する方法です。会社の将来性を反映できる一方、事業計画、割引率、継続価値などの前提によって結果は大きく変わります。
DCFによる株式価値は、実際の売買価格を検討するための重要な判断材料ですが、その金額で売買しなければならないわけではありません。
将来のキャッシュフローから株式価値を求めます
DCFは「Discounted Cash Flow」の略称です。
会社が将来生み出すと見込まれるフリー・キャッシュ・フローを予測し、現在価値へ割り引いて事業価値を求めます。
大まかな計算の構造は、次のとおりです。
予測期間中のキャッシュフローの現在価値
+ 予測期間後の継続価値の現在価値
= 事業価値
さらに、事業に直接使用していない現預金、投資有価証券などを加え、借入金等を差し引いて株式価値を求めます。
事業価値
+ 非事業用資産
- 有利子負債等
= 株式価値
この株式価値を株式数で割ると、一株当たりの株式価値になります。
DCF法では、当期純利益をそのまま使うわけではありません。営業利益から税金を差し引き、減価償却費、設備投資、売掛金や在庫などの増減を調整して、事業が実際に生み出すキャッシュを計算します。
事業計画によって評価額が変わります
DCF法の出発点は、将来の事業計画です。
売上高や利益率を高く見込めば株式価値は高くなり、慎重に見込めば低くなります。そのため、計画の数字を計算式へ入力するだけでは、信頼できる評価にはなりません。
主に次の事項を確認します。
- 過去の実績と整合しているか
- 売上成長の根拠が具体的か
- 原価や人件費の増加が反映されているか
- 必要な設備投資が含まれているか
- 売掛金や在庫の増加が考慮されているか
- 一時的な収益や費用が除かれているか
誰が作成した計画かも重要です。
売主が作成した計画には、売却価格を高くしたいという期待が含まれることがあります。買主の計画には、買収後に買主自身が実施する施策やシナジーが含まれている場合があります。
そのシナジーを売主に帰属する価値として扱うかは、別途検討する必要があります。
割引率と継続価値が結果を大きく動かします
将来のキャッシュフローには不確実性があるため、DCF法では割引率を使って現在価値へ置き換えます。
割引率が高くなれば評価額は低くなり、低くなれば評価額は高くなります。
非上場の中小企業では、事業規模、収益の安定性、顧客の集中、特定の経営者への依存などを、どのように割引率へ反映するかが問題になります。
また、詳細な事業計画を作成できる期間には限界があるため、予測期間後も事業が続くと仮定して「継続価値」を計算します。
DCFによる評価額のうち、継続価値が大部分を占めることもあります。そのため、割引率、永久成長率、予測期間後の利益水準を少し変更しただけで、株式価値が大きく動く場合があります。
計算結果を見るときは、一株当たりの金額だけでなく、どの前提が評価額を動かしているかを確認する必要があります。
現預金をすべて上乗せできるとは限りません
事業価値を株式価値へ変換するときは、現預金、投資有価証券、遊休不動産などの非事業用資産を加え、借入金等を差し引きます。
ただし、会社の現預金をすべて余剰資金として加算できるとは限りません。
給与、仕入代金、税金、設備投資、借入金の返済など、事業を継続するために必要な資金を残す必要があるからです。
また、計画上のキャッシュフローに含まれている資産を別途加算すれば二重計上になります。未払残業代、退職給付、訴訟リスクなど、計算に反映されていない債務があれば追加で検討します。
どこまでを事業価値に含め、どの資産・負債を別途調整するかによっても、株式価値は変わります。
誰が何株取得するかによって価格の意味が変わります
DCF法で会社全体の株式価値を計算し、株式数で割れば、一株当たりの株式価値を求められます。
しかし、その金額がどの取引にも同じように使えるとは限りません。
会社全体を取得する買主は、経営方針、役員の選任、配当、会社資産の利用などを決められるようになります。
一方、少数株主は、通常、経営や配当方針を単独で決められません。非上場株式には市場がなく、希望する時期や価格で売却できないこともあります。
また、取得によって買主の持株割合が過半数を超える場合や、重要な議案を阻止できる割合に達する場合、その株式には支配権や拒否権としての意味が生じます。
同じ会社の一株でも、誰が誰から何株を取得し、取引後に何を得るのかによって、価格の考え方は変わります。
税務評価、DCF、提示価格を分けて比較します
類似業種比準価額、純資産価額、配当還元価額は、相続税や贈与税における非上場株式の評価に用いられる税務上の株価です。
DCFによる株式価値は、会社が将来生み出すキャッシュフローから求めた経済的な価値です。
相手からの提示価格には、持株割合、支配権、換金可能性、シナジー、交渉経緯などが反映されます。
それぞれ目的と前提が異なるため、金額が違っていても、直ちにどれかが間違っているとは限りません。
例えば、次のような場合を考えます。
- 税務評価額:一株500円
- DCFによる株式価値:一株5,000円
- 相手からの提示価格:一株1,400円
この場合、単純に中間の金額を選ぶものではありません。
税務評価額が低い理由、DCFが高い理由、提示価格が1,400円となった理由をそれぞれ確認します。
さらに、事業計画、割引率、永久成長率などの主要な前提を変更した感応度分析を行い、株式価値がどの範囲で動くかを確認します。
重要なのは、DCFで一つの数字を計算して終わることではありません。
どの前提なら、どの株式価値になるのか。その中で、今回の取引価格をどこに置くのかを検討することです。
DCFによる株式価値は、売買価格を自動的に決める答えではありません。しかし、会社の将来性を数字に置き換え、提示価格の妥当性を検討するための重要な判断材料になります。
参考資料
※本記事は、非上場株式の企業価値・株式価値評価に関する一般的な考え方を説明したものです。実際に採用する評価方法および取引価格は、会社、株主、取引目的、評価時点、事業計画等によって異なります。
DCFによる株式価値は計算できた。しかし、その金額を実際の取引価格に使ってよいか分からない。
DCFの評価額で取引してよいか相談する
事業計画、割引率、継続価値などの前提を確認し、税務評価、DCF等による株式価値、実際の提示価格の関係を整理します。
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