GENERAL GUIDE 08
非上場株式の低額譲渡|贈与税・みなし譲渡と時価の注意点
非上場株式を安く売ると、個人間では買主の贈与税、個人から法人への売却では売主のみなし譲渡などが問題になります。「時価の半額以上なら安全」とは一律に判断できません。
しかし、税務上は、当事者が合意した売買価格と税務上の時価を分けて考える必要があります。
売買価格が税務上の時価より低い場合には、売主が実際には受け取っていない金額について課税されたり、買主が得た経済的利益に課税されたりすることがあります。
安いかどうかは合意価格だけで判断せず、当事者、税務上の時価、差額の移転先を順番に確認します。
低額譲渡は5つの事項から確認する
- 誰から誰へ売るのか
- 今回の取引で用いる税務上の時価はいくらか
- 時価と売買価格にどの程度の差があるか
- 差額が誰から誰へ移転したと考えられるか
- その価格を決めた理由を説明できるか
単に「安く売ったか」だけでなく、売主と買主の双方について課税関係を検討する必要があります。
低額譲渡を判断する「時価」とは
評価方法を確認したい方は、税務評価額・企業価値・売買価格の違いをご覧ください。評価の目的を決めてから、今回の売主・買主に適用する方法を検討します。
非上場株式には、上場株式のように市場で公表される取引価格がありません。
そのため、同じ株式についても、目的によって異なる金額が示されることがあります。
- 当事者が合意した売買価格
- 相続税や贈与税の計算に使用する評価額
- 所得税や法人税を検討する際の時価
- DCF法などによって算定した経済的な価値
- 過去に行われた株式売買の価格
これらは、常に同じ金額になるとは限りません。
低額譲渡に当たるかを判断するときは、複数の株価のうち最も高いものを機械的に採用するのではなく、当事者の関係、適用される税目、株式の保有割合などを踏まえ、今回の取引における税務上の時価を検討します。
合意した価格と税務上の時価は別に考える
たとえば、当事者が1株1,000円で売買することに合意していても、税務上の時価が1株5,000円と判断されれば、1株当たり4,000円の差額が生じます。
税務上は、この差額について経済的な利益が移転したと考えられることがあります。
ただし、差額にどの税金がかかるかは、売主と買主が個人か法人かによって異なります。
同じ「1株5,000円の株式を1,000円で売った」という取引でも、贈与税、所得税、法人税のいずれを検討するかは一律ではありません。
低額譲渡の差額は、誰の税金になるのか
ここでは時価を下回る取引で追加確認が必要となる点を整理します。通常の譲渡益の計算は、当事者別の記事の税率・計算例を参照してください。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールしてご覧いただけます。
| 取引 | 差額について確認すること |
|---|---|
| 個人 → 個人 | 著しく低い価額なら、買主に時価と対価の差額のみなし贈与。著しく低いかどうかは個別に判断します。 |
| 個人 → 法人 | 時価の2分の1未満なら、売主のみなし譲渡を確認。買主法人の受贈益も別に検討します。発行会社による自己株式取得は別途確認します。 |
| 法人 → 個人 | 法人側の時価による損益・差額処理と、個人側の所得税を確認。役員・従業員・株主などの関係で所得区分が変わります。 |
| 法人 → 法人 | 売主の寄附金、買主の受贈益等を確認。完全支配関係などの特則にも注意します。 |
時価5,000円の株式を1,000円で売る例
個人間の取引が著しく低い価額での譲受けに当たる場合、1株当たり4,000円の差額がみなし贈与の対象となり得ます。4,000円は税額そのものではなく、贈与税の計算では株数や他の贈与、適用制度も確認します。
個人から法人へ売る場合は、1,000円が時価5,000円の半分未満なので、売主の所得計算に実際の代金ではなく時価を用いる取扱いを確認します。買主が発行会社の場合は、自己株式取得の価格と税金も確認してください。
「時価の2分の1以上なら安全」とは限らない
個人から法人への低額譲渡では、「時価の2分の1」という基準が問題になることがあります。
しかし、売買価格が時価の2分の1以上であれば、すべての税務上の問題がなくなるという意味ではありません。
2分の1基準は、所得税法上のみなし譲渡に関する一つの基準です。買主である法人の受贈益、同族会社を利用した利益移転、その他の課税関係については、別途検討が必要です。
また、個人間売買における贈与税や法人から個人への利益供与について、同じ基準をそのまま当てはめることもできません。
時価の2分の1以上で売る場合の課税関係については、別の記事で詳しく取り上げます。
取引目的があっても、課税がなくなるとは限らない
非上場株式を安く売る背景には、さまざまな事情があります。
- 後継者へ株式を移したい
- 役員や従業員に株式を持たせたい
- 退職する役員から株式を買い戻したい
- 少数株主との関係を整理したい
- 関係会社へ株式を移したい
- 買主に十分な購入資金がない
こうした目的に合理性があっても、それだけで時価との差額に対する課税がなくなるとは限りません。
税務上は、取引の目的だけでなく、その目的と売買価格がどのように結び付いているか、その価格を採用した算定方法に合理性があるかを確認します。
売買前に株価と価格決定理由を記録する
低額譲渡の税務リスクを検討するときは、売買契約書だけでなく、価格を決めた過程を示す資料が重要になります。
- 株主名簿
- 売主と買主の関係が分かる資料
- 直近数期の決算書と法人税申告書
- 株式の取得価額が分かる資料
- 税務上の株価算定資料
- 他の算定方法を使用した場合の評価資料
- 売買価格を決定した経緯を記載した資料
- 取締役会や株主総会等の議事録
- 株式譲渡契約書
- 過去の株式売買や自己株式取得の記録
特に、算定した株価と実際の売買価格が異なる場合は、その差が生じた理由を取引時点の資料として残すことが重要です。
税務調査が始まってから、当時の事情や価格決定の過程を正確に再現することは容易ではありません。
まとめ
非上場株式を安く売る場合、売買価格だけを見て税金を判断することはできません。
まず、売主と買主が個人か法人かを確認し、今回の取引における税務上の時価を検討します。そのうえで、時価と売買価格の差額が、誰から誰へ移転したと考えられるのかを整理する必要があります。
一つの取引について、売主側では譲渡所得や法人税、買主側では贈与税、受贈益、給与所得または配当所得などが問題になることがあります。
また、「時価の2分の1以上で売れば問題がない」「事業承継のためなら安く売ってもよい」と一律に判断することはできません。
当事務所では、非上場株式の税務評価に加え、売主・買主双方の課税関係、売買価格の決定方法、価格決定資料の作成まで一体として検討しています。
安く売る前に、株価だけでなく、その差額が誰の所得になるかまで確認することが重要です。
この価格で取引してよいか相談する
予定価格とその根拠、売主・買主の関係、売買予定時期をお知らせください。時価との差額について、確認すべき税金と資料を整理します。
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2026年10月13日更新。個別の課税関係は、取引時点の制度、株主構成、当事者の関係、評価の前提によって異なります。