GENERAL GUIDE 14
額面・設立時の払込価格で非上場株式を売買してよいのか
「会社を設立したときは1株5万円でした。今回の株式売買も、同じ1株5万円でよいでしょうか」
非上場株式の売買では、このような相談があります。
設立時の払込価格や、売主が株式を取得したときの価格が分かっていると、その金額を現在の売買にも使えるように思えるかもしれません。
しかし、設立時の払込価格は、設立時点で株主が会社へ払い込んだ金額です。現在の会社の財務内容、収益力、保有資産、将来性などを反映した金額ではありません。
会社が設立後も事業を続けていれば、利益や損失が蓄積し、資産や負債も変化します。設立時の1株当たり金額が、現在の株式価値を表し続けるわけではありません。
設立時の価格で売買すること自体が、直ちに禁止されるわけではありません。ただし、現在の税務上の時価や経済価値との差が大きい場合には、売主、買主又は関係する会社に課税問題が生じる可能性があります。
確認すべきなのは、昔の1株当たり金額ではなく、現在の会社の状態と今回の取引条件です。
昔の1株5万円を、現在も使えるとは限らない
会社設立時に1株5万円で株式を発行していたとしても、現在の1株の価値が5万円とは限りません。
設立時の払込価格は、会社を設立するときに株主が会社へ払い込んだ金額を、設立時に発行した株式数で割ったものです。
たとえば、設立時に1,000万円を払い込み、200株を発行した場合、1株当たりの払込金額は5万円です。
この5万円から分かるのは、設立時に株主がどの程度の金額を出資したかということです。その後に会社が獲得した利益、保有する資産の値上がり、借入金、配当、事業の成長などは反映されていません。
設立後に利益を蓄積し、多額の現預金や不動産を保有するようになった会社では、現在の1株当たりの価値が設立時の払込価格を大きく上回ることがあります。
反対に、赤字が続き、純資産が減少している会社では、現在の株式価値が設立時の払込価格を下回る可能性もあります。
したがって、「設立時から1株5万円だった」という理由だけで、現在の売買価格を1株5万円と決めることはできません。
まず「額面」が何を指しているのか確認する
非上場株式の相談では、「額面で売りたい」「昔から額面は5万円だった」という言葉が使われることがあります。
しかし、その「額面」が何を指しているのかは、相談者によって異なります。
- 古い株券に記載されている金額
- 会社設立時の1株当たり払込金額
- 売主が株式を取得したときの価格
- 過去に株主間で売買した価格
- 帳簿や株主名簿に記載された金額
これらは、同じ数字になることもありますが、意味は同じではありません。
かつては額面株式の制度がありましたが、現在の会社法では、株式の額面を基準として現在の株価を決める仕組みにはなっていません。
古い株券に5万円と記載されていたとしても、その5万円が現在の会社の価値や、現在の適正な売買価格を示すものではありません。
まず、定款、株券、設立時の株主名簿、払込証明書、過去の株式譲渡契約書などを確認し、「1株5万円」が何の金額なのかを特定します。
「額面」という言葉だけで価格を判断しないことが重要です。
設立時の払込価格は、設立時の出資額を表している
設立時の払込価格は、会社を設立するときに、発起人などが引き受けた株式について会社へ払い込んだ金額です。
払い込まれた金額は、会社の資本金又は資本準備金などとして計上されます。
したがって、設立時の払込価格は、会社設立時の出資関係を確認するための重要な資料です。
ただし、設立時点では、その後に形成される取引先との関係、従業員や組織、技術、ノウハウ、ブランド、利益の蓄積などは、まだ十分に存在していません。
会社が設立後に利益を上げれば、その利益の一部は会社内に蓄積されます。会社が土地や有価証券を取得し、その価値が上昇することもあります。
反対に、損失が続けば、設立時に払い込まれた資本が減少することもあります。
設立時の払込価格は、現在の売買価格を決める数字ではなく、株式がどのように発行され、取得されたかを確認するための過去の資料です。
売主の取得価額は、売主側の税金を計算するための数字
設立時の払込価格と、現在の売主の取得価額も区別する必要があります。
設立時から株式を保有している株主であれば、設立時に払い込んだ金額が取得価額の基礎になる場合があります。
一方、売主が他の株主から株式を購入していれば、その購入価格が取得価額の基礎になります。相続や贈与で取得した場合には、被相続人や贈与者の取得価額を引き継ぐかどうかなど、取得経緯に応じた確認が必要です。
取得価額は、売主が株式を売却したときの譲渡所得などを計算するための数字です。
たとえば、取得価額が1株5万円で、1株20万円で売却した場合には、売却価格と取得価額との差額を基礎として譲渡所得を計算します。
しかし、取得価額が1株5万円だからといって、1株5万円で売らなければならないわけではありません。
取得価額は、売主がその株式を取得するために負担した金額です。現在の税務上の時価や経済価値を表す数字ではありません。
六つの数字を分けて考える
非上場株式の売買を検討するときは、似ているように見える次の数字を分けて考えます。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールしてご覧いただけます。
| 数字 | 主な意味 |
|---|---|
| 旧額面 | 過去の株式制度において株券などに表示されていた金額 |
| 設立時の払込価格 | 設立時に株主が会社へ払い込んだ金額 |
| 売主の取得価額 | 売主の譲渡所得などを計算する際の取得費に関係する金額 |
| 税務上の時価 | 売買に伴う課税関係を判断するために確認する価額 |
| 現在の経済価値 | 現在の資産、収益力、将来性などを反映して検討する価値 |
| 実際の売買価格 | 当事者が取引条件を踏まえて合意する価格 |
これらの数字は、結果として近い金額になることもあります。
しかし、金額が同じであっても、それぞれの意味と計算目的は異なります。
今回の売買価格を決める際には、どの数字を使ったかだけでなく、その数字が今回の取引に適している理由を説明できることが重要です。
税務上の時価は、誰が誰に売るかによって変わる
非上場株式の税務上の時価は、すべての取引に共通する一つの金額ではありません。
まず、次の事項を確認します。
- 売主は個人か法人か
- 買主は個人か法人か
- 売主と買主に親族関係や支配関係があるか
- 発行会社が自己株式として買い取るのか
- 売買する株式数はいくらか
- 取引前後の持株割合はどう変わるか
- 取引の目的は何か
個人が法人へ株式を著しく低い価格で譲渡した場合には、一定の要件の下で、時価によって譲渡したものとみなされることがあります。
個人が他の個人から著しく低い価格で株式を取得した場合には、時価と支払価格との差額について、贈与により取得したものとみなされる可能性があります。
法人が低額で株式を譲渡又は取得した場合にも、譲渡した法人、取得した法人又は取得した個人について、法人税や所得税などの確認が必要になります。
発行会社が自己株式として買い取る場合には、通常の株式売買とは異なり、売主側のみなし配当と株式譲渡部分を分けて検討する必要があります。
したがって、「設立時と同じ価格だから問題ない」「売主の取得価額と同じだから利益が出ていない」という理由だけでは、税務上の安全性を判断できません。
設立時価格と現在の税務上の時価に差がある場合には、その差が売主、買主及び関係会社にどのような影響を与えるかを確認します。
現在の会社は、設立時とは別の状態になっている
現在の経済価値を検討するときは、会社設立後に何が変わったのかを確認します。
主な確認項目は、次のとおりです。
- 現在の純資産
- 設立後に蓄積した利益又は累積損失
- 現預金や借入金の残高
- 土地、有価証券その他の資産の含み損益
- 現在の売上と利益
- 将来の収益力
- 配当実績
- 主要な取引先や契約
- 事業の継続性
- 売買する株式数と取得後の持株割合
設立時の資本金が1,000万円であっても、その後に利益を蓄積し、現在の純資産が大きく増えていれば、設立時の払込価格だけで現在の株式価値を説明することは難しくなります。
帳簿上の純資産があまり増えていなくても、会社が保有する土地に多額の含み益がある場合や、安定した利益を生み出す事業を確立している場合には、それらも検討する必要があります。
反対に、会社の業績が悪化し、累積損失や多額の借入金を抱えている場合には、設立時の払込価格よりも現在の経済価値が低くなっている可能性があります。
現在の会社又は株式の経済価値を検討する方法には、時価純資産法、DCF法、類似会社比較法などがあります。
どの方法を用いるかは、会社の事業内容、資産構成、収益力、成長性及び評価目的によって異なります。
重要なのは、設立時の会社と現在の会社を同じ状態として扱わないことです。
設立時価格で売る前に、三段階で確認する
設立時の払込価格を今回の売買価格として採用することが、直ちに否定されるわけではありません。
会社の状態によっては、設立時から会社価値がほとんど変化しておらず、設立時価格と現在の税務上の時価や経済価値に大きな差がない場合もあります。
ただし、「昔からこの価格だった」という理由だけで採用するのではなく、次の三段階で確認します。
1.比較する数字をそろえる
設立時価格だけでなく、次の数字を確認します。
- 現在の税務上の時価
- 現在の経済価値
- 過去の株式売買価格
- 第三者から提示された価格
- 今回予定している売買価格
それぞれの評価時点、評価目的、計算方法及び前提条件も確認します。
2.今回の取引条件を確認する
次に、今回の売主と買主、両者の関係、売買株式数、取引前後の持株割合、支払条件及び取引目的を確認します。
同じ1株でも、少数株式を取得する取引と、経営権を取得する取引では、買主にとっての意味が異なります。
また、親族間や同族会社と株主との間の取引では、第三者間の取引よりも価格の根拠を慎重に確認する必要があります。
3.採用理由と判断過程を残す
設立時価格を採用する場合には、なぜ現在もその価格を使用できると判断したのかを記録します。
設立時価格と他の価格との差額、会社の財務内容、当事者関係、持株割合、税務上の検討、社内の意思決定などを整理します。
採用した価格だけでなく、比較した価格と採用しなかった理由も残しておくと、取引後に価格の根拠を説明しやすくなります。
現在の売買価格を検討するために必要な資料
設立時価格を現在の売買価格として使用できるかを判断するには、設立時の資料、現在の会社資料、今回の取引資料をつなげて確認します。
設立時と株式取得の資料
- 定款
- 発起人の決定書
- 払込証明書
- 設立時の株主名簿
- 株券
- 株式の取得経緯が分かる資料
- 過去の株式譲渡契約書
現在の会社を確認する資料
- 現在の株主名簿
- 直近3期程度の決算書
- 最新の月次試算表
- 法人税申告書
- 勘定科目内訳明細書
- 土地、有価証券その他の保有資産の時価資料
- 借入金その他の負債に関する資料
- 事業計画
- 配当実績
- 税務評価額の計算資料
- 株価算定書
今回の取引を確認する資料
- 売主と買主が分かる資料
- 売買予定株式数
- 取引前後の持株割合
- 予定している売買価格と支払条件
- 価格交渉の記録
- 取締役会又は株主総会等の意思決定資料
- 株式譲渡契約書案
株価算定書がある場合には、算定額だけでなく、算定目的、評価基準日、使用資料及び前提条件も確認します。
まとめ―昔の価格は資料になるが、現在価格の根拠にはならない
設立時の払込価格や売主の取得価額は、株式の発行経緯や取得経緯を確認するための重要な資料です。
過去の数字が間違っているわけではありません。
しかし、その数字が正しかったことと、現在も同じ金額で売買してよいことは別の問題です。
会社は、設立後の利益、損失、資産、負債、収益力及び事業内容によって変化します。取引の当事者や持株割合も、税務上の時価や実際の売買価格を検討するうえで重要です。
設立時価格で売買する場合にも、現在の税務上の時価と経済価値を確認し、今回の取引条件に照らして採用できるかを検討します。
そして、設立時価格、現在の税務上の時価、経済価値及び予定する売買価格を比較し、その価格を採用した理由と判断過程を資料として残します。
※本記事は一般的な考え方を説明するものです。個別の取引で必要となる評価方法、税務上の時価及び課税関係は、売主・買主の属性、当事者関係、株主構成、持株割合、取引目的その他の事情によって異なります。