GENERAL GUIDE 16
含み益のある不動産を持つ会社の株価―帳簿上の純資産だけで売買してよいのか
「決算書では土地が3,000万円で計上されていますが、現在売れば1億円程度になるようです。この会社の株式を売買するとき、決算書の純資産を株式数で割った価格を使ってよいでしょうか」
非上場株式の売買では、このような相談があります。
結論からいえば、決算書の純資産だけで株価を決めることはできません。
長期間保有している土地や建物には、決算書に表れていない含み益又は含み損が生じていることがあるためです。
一方、帳簿価額と現在価値との差額を、そのまま株価へ足せばよいわけでもありません。
相続・贈与のための株価と、株式を売買する際の税務上の時価では、不動産の評価方法や評価差額に対する法人税額等相当額の取扱いが同じとは限りません。実際の売買価格を検討するには、不動産に対応する負債、権利関係、売却可能性、会社の収益力、持株割合及び取引条件も確認する必要があります。
不動産を持つ会社の株価は、次の順序で検討します。
- 不動産の帳簿価額と現在価値の差を確認する
- 相続・贈与、株式譲渡など、今回必要な株価の目的を特定する
- 不動産だけでなく、会社全体と取引条件から売買価格を検討する
帳簿純資産は出発点だが、現在の株価ではない
帳簿上の純資産は、決算書に記載された資産から負債を差し引いた金額です。
会社の財務状態を確認するうえで重要な数字ですが、決算書に記載された土地や建物の金額が、現在の価値を表しているとは限りません。
たとえば、会社が30年前に3,000万円で取得した土地について、現在価値の参考値が1億円になっているとします。
決算書に土地が3,000万円で計上されている場合、現在価値との差額7,000万円が、そのまま帳簿上の純資産へ表れているわけではありません。
この会社について、帳簿純資産だけを発行済株式数で割ると、不動産の現在価値を見落とす可能性があります。
反対に、帳簿価額よりも現在価値が低くなっている不動産もあります。
建物の老朽化、立地条件の変化、土壌汚染、境界問題、用途制限などがあれば、帳簿価額を下回ることもあります。
したがって、最初に確認するのは、決算書の純資産が正しいか間違っているかではありません。
決算書の数字と現在の会社の状態との間に、どのような差があるかです。
なぜ帳簿価額と不動産の現在価値がずれるのか
帳簿価額は、会社が不動産を取得したときの金額などを基礎として、決算書や固定資産台帳に記録されている金額です。
土地の市場価格が取得後に上昇しても、その上昇額が毎期そのまま決算書へ加算されるわけではありません。
そのため、昔から保有している土地では、帳簿価額と現在価値との間に大きな差が生じることがあります。
建物についても、減価償却後の帳簿価額と現在の売却可能額は別の数字です。
不動産を持つ会社の株価を検討するときは、物件ごとに次の事項を確認します。
- 土地と建物の帳簿価額
- 取得時期と取得価額
- 所在地と利用状況
- 現在価値を確認する資料
- 対応する借入金
- 担保、共有、賃貸借その他の権利関係
帳簿純資産を確認しただけで、不動産の含み損益まで確認したことにはなりません。
四つの金額を混同しない
不動産を持つ会社の株価を検討するときは、少なくとも次の四つの金額を分けて考えます。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールしてご覧いただけます。
| 金額 | 主な意味 | その数字だけでは決められないもの |
|---|---|---|
| 不動産の帳簿価額 | 決算書や固定資産台帳に記録された金額 | 不動産の現在価値、現在の株価 |
| 相続税評価に用いる価額 | 相続・贈与のための株式評価で使用する金額 | あらゆる当事者間の売買価格 |
| 通常の取引価額・不動産の現在価値 | 現時点で不動産を取引する場合に参考となる金額 | 会社全体又は株式の価値 |
| 株式の実際の売買価格 | 会社全体と取引条件を踏まえて当事者が合意する金額 | 他の取引にも共通する税務上の時価 |
固定資産税評価額、路線価、不動産鑑定評価額、不動産会社の査定額なども、不動産の価額を確認するための資料になります。
ただし、それぞれ評価目的や前提条件が異なります。
固定資産税評価額や路線価が分かったからといって、その金額をそのまま会社の株価へ置き換えることはできません。
まず、何のための株価が必要なのかを決め、その目的に対応する不動産価額を確認します。その後、不動産以外の資産、負債、収益力、株式数及び取引条件を合わせて検討します。
相続・贈与の純資産価額では、資産を評価し直す
相続又は贈与により取得した取引相場のない株式を純資産価額方式で評価する場合、決算書の純資産をそのまま発行済株式数で割るわけではありません。
財産評価基本通達185による基本的な流れは、次のとおりです。
- 課税時期における会社の各資産を財産評価基本通達により評価する
- 課税時期における負債などを控除する
- 評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除する
- 課税時期の発行済株式数で除して、1株当たり純資産価額を計算する
会社が保有する土地についても、決算書の帳簿価額をそのまま使うのではなく、財産評価基本通達に従って評価します。
また、評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等及び家屋等については、原則として、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価します。
帳簿価額が課税時期の通常の取引価額に相当すると認められる場合には、その帳簿価額を使用できるとされています。しかし、取得時の金額を無条件に使用できるという意味ではありません。
相続税評価額による純資産と帳簿価額による純資産との間に評価差額がある場合には、財産評価基本通達186-2により、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を計算します。
2026年の現行通達では、一定の評価差額に38%を乗じて計算します。
これは、相続・贈与における純資産価額を計算するための調整です。会社が実際に不動産を売却した場合の税額を計算しているわけではなく、すべての株式売買で含み益から一律に38%を控除できるという意味でもありません。
土地を多く持つ会社は、土地保有特定会社の判定も必要
会社の総資産に占める土地等の割合が高い場合には、相続・贈与の株式評価において、土地保有特定会社に該当しないかを確認します。
財産評価基本通達では、会社規模などに応じて、通達評価による総資産に占める土地等の割合が70%以上又は90%以上となる会社を、土地保有特定会社として扱います。
該当する場合、株式は原則として純資産価額を基礎に評価します。
ただし、土地を保有しているだけで直ちに該当するわけではありません。会社規模、土地保有割合及び他の特定会社への該当状況を確認する必要があります。
また、土地保有特定会社は相続・贈与評価の制度上の区分です。この判定による評価額が、そのまま実際の株式売買価格になるわけではありません。
株式譲渡では、相続・贈与と同じ調整にならないことがある
「以前、相続税申告のために株価を計算したので、その金額で売買すればよい」とは限りません。
たとえば、所得税基本通達59-6は、個人が非上場株式を法人へ著しく低い価額で譲渡した場合などに問題となる株式の価額について、一定の条件の下で財産評価基本通達の例により算定することを示しています。
しかし、相続・贈与評価の計算をそのまま使用するわけではありません。次の表は、本記事の主題である不動産の評価と、評価差額に対する法人税額等相当額に関する主な相違点を示したものです。所得税基本通達59-6を適用する場合には、譲渡者の株主区分、評価会社の区分、上場有価証券の評価など、同通達に定める他の条件も確認します。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールしてご覧いただけます。
| 確認項目 | 相続・贈与の純資産価額 | 所得税基本通達59-6による対象取引の評価 |
|---|---|---|
| 発行会社が保有する土地 | 財産評価基本通達により評価する | 株式の譲渡又は贈与時の価額による |
| 評価差額に対する法人税額等相当額 | 通達186-2により控除する | 控除しない |
そのため、相続税評価による株価が既に計算されていても、次の内容を確認しなければなりません。
- 何の目的で作成された株価か
- 評価基準日はいつか
- どの不動産価額を使用したか
- 評価差額に対する法人税額等相当額を控除したか
- 今回の売主と買主は誰か
所得税基本通達59-6の取扱いが、すべての株式売買へ同じ形で適用されるわけではありません。
売主と買主が個人か法人か、親族関係や支配関係があるか、発行会社が自己株式として買い取るのかによって、確認する税務上の時価と課税関係が変わります。
相続税評価額があることと、その金額で株式を売買して税務上問題がないことは、別の問題です。
含み益7,000万円を、そのまま株価へ足せない四つの理由
土地の帳簿価額が3,000万円、現在価値の参考値が1億円なら、表面的な差額は7,000万円です。
それでも、7,000万円をそのまま会社の株式価値へ加算できるとは限りません。主な理由は四つあります。
1.その不動産を売れるとは限らない
工場、店舗、事務所など、会社が事業を続けるために必要な不動産は、自由に売却して現金化できる資産とは限りません。
売却後に代替物件を取得又は賃借する必要があれば、その費用も考える必要があります。
2.売却して1億円がそのまま残るとは限らない
不動産に借入金、抵当権、敷金・保証金、共有関係、借地権・借家権などがあれば、所有権の価値や会社に残る金額へ影響します。
実際に売却する場合には、仲介手数料その他の売却費用や、売却益に対する税負担が生じる可能性もあります。
3.株式価値は不動産だけでは決まらない
会社には、不動産以外の資産と負債があります。
現預金、有価証券、事業用設備、借入金、未払債務、偶発債務なども確認する必要があります。
本業で安定した利益を生んでいるのか、赤字が続いているのかという収益力も、実際の売買価格を考えるうえで重要です。
4.どの株式を取得するかによって意味が異なる
少数株式を取得する取引と、経営権を取得する取引では、買主が得る権利が異なります。
同じ会社の株式でも、売買株式数、取引前後の持株割合、議決権、配当を受ける可能性及び株式を再売却できる可能性によって、買主にとっての経済的な意味が変わります。
不動産の現在価値は、株価検討の重要な入力値です。しかし、不動産の現在価値と株式の売買価格は同じではありません。
売買前に三段階で確認する
不動産の含み損益がある会社の株式を売買するときは、次の三段階で確認します。
1.不動産と対応する負債を物件別に確認する
- 帳簿価額と取得時期
- 現在価値を示す資料と評価時点
- 利用状況と収益状況
- 借入金と返済状況
- 担保、共有、賃貸借その他の権利関係
複数の価額資料がある場合には、金額だけでなく、評価目的、評価時点、前提条件及び算定方法を確認します。
2.今回必要な株価の目的と当事者を特定する
- 売主と買主
- 両者の親族関係又は支配関係
- 評価時点
- 売買株式数
- 取引前後の持株割合
- 支配権移動の有無
- 取引目的
- 予定価格と支払条件
相続・贈与、個人から法人への譲渡、個人間譲渡、法人間譲渡、発行会社による自己株式の取得では、確認する課税関係が同じではありません。
3.複数の価格を比較し、採用理由を残す
- 帳簿純資産を基礎とした金額
- 税務上の評価方法による金額
- 不動産の現在価値を反映した会社又は株式の経済価値
- 過去の株式売買価格又は第三者から提示された価格
- 今回予定している売買価格
差額がある場合には、その理由を整理します。
採用した価格だけでなく、使用資料、評価時点、当事者関係、持株割合、比較した価格及び採用しなかった理由も記録します。
確認に必要な資料
必要な資料は、確認目的ごとに整理します。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールしてご覧いただけます。
| 確認目的 | 主な資料 |
|---|---|
| 不動産の簿価・取得時期 | 固定資産台帳、取得契約書、決算書、勘定科目内訳明細書 |
| 所有・担保・権利関係 | 登記事項証明書、借入契約書、担保資料、賃貸借契約書、共有関係資料 |
| 不動産の価額 | 固定資産税課税明細、路線価資料、不動産鑑定評価書、不動産会社の査定資料 |
| 不動産の収益性 | 賃貸借契約書、賃料明細、空室状況、修繕費・管理費資料 |
| 会社全体の資産・負債・収益 | 直近3期程度の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳明細書、最新の月次試算表 |
| 株主と持株割合 | 株主名簿、過去の株式譲渡資料、取引前後の持株割合表 |
| 過去の株価 | 過去の株価算定書、相続税評価資料、過去の株式譲渡契約書 |
| 今回の取引条件 | 予定価格、株式数、支払条件、価格交渉記録、意思決定資料、株式譲渡契約書案 |
不動産鑑定評価書や株価算定書がある場合には、最終的な金額だけでなく、評価目的、評価基準日、使用資料及び前提条件も確認します。
過去に作成された資料が正しくても、評価時点や目的が今回と異なれば、その金額をそのまま使用できるとは限りません。
まとめ―簿価、税務評価、経済価値、売買価格を分けて判断する
不動産を持つ会社の帳簿純資産は、株価検討の出発点です。しかし、それだけで現在の売買価格を決めることはできません。
不動産の含み損益を確認したうえで、次の四点を分けて判断します。
- 決算書に記載された帳簿価額
- 評価目的に対応した税務上の評価額
- 不動産と会社全体の経済価値
- 当事者と取引条件を踏まえた実際の売買価格
相続・贈与の純資産価額と株式譲渡時の税務上の時価では、不動産の評価方法や法人税額等相当額の取扱いが同じとは限りません。
また、不動産の現在価値が分かっても、含み益をそのまま株価へ加算できるとは限りません。対応する負債、権利関係、売却費用・税負担、会社の収益力、持株割合及び支配権を確認する必要があります。
複数の価格を比較し、今回の価格を採用した理由と判断過程を残すことが重要です。
※本記事は一般的な考え方を説明するものです。個別の株式売買で必要となる評価方法、税務上の時価及び課税関係は、売主・買主の属性、当事者関係、会社規模、株主構成、持株割合、保有不動産、評価目的その他の事情によって異なります。
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