CASE 05
少数株主から「2,000円なら売る」
と言われたら?
少数株主へ株式の売却を打診したところ、
「1株2,000円なら売ります」と言われた。
一方、税理士が計算した税務評価額は1株300円。DCF等による会社全体の株式価値は、1株5,000円だった。
この場合、2,000円は高すぎるのでしょうか。
それとも、5,000円より安く買えるのでしょうか。
300円、2,000円、5,000円は、それぞれ目的と前提が異なります。
まず、3つの価格が何を
表しているかを分けます
- 300円:一定の税務上の目的と前提に基づいて算定された株価
- 2,000円:少数株主が売却に応じる条件として提示した価格
- 5,000円:会社全体の収益力などから算定した株式価値
税務評価額は、実際の買取価格を自動的に決める数字ではありません。
相手の提示価格も、税務上の安全性が保証された価格ではありません。DCF等による株式価値も、そのまま少数株式1株の売買価格になるとは限りません。
必要なのは、どれか一つを正解として選ぶことではなく、それぞれの数字が何を表しているかを整理することです。
誰が買い取るのかで、
株式の意味が変わります
少数株主の株式を買い取る主体には、次のような候補があります。
- 現在の大株主
- 代表者や後継者
- ほかの既存株主
- 会社
- M&Aの買主
誰が買主になるかによって、確認すべき税務上の時価や課税関係が変わることがあります。
少数株主にとっては経営へ影響を与えにくい株式でも、大株主にとっては持株割合や支配力を高める株式になることがあります。
会社が買い取る場合には株主を集約する効果があり、M&Aの買主であれば完全子会社化を進めるために必要な株式である可能性もあります。
売主側から見た株価だけでなく、買主がその株式を取得することで何を得るのかを確認します。
税務評価額300円で
買い取るべきとは限りません
税務評価額300円は、買取価格を検討するうえで重要な数字です。ただし、最初に次の点を確認する必要があります。
- 何のために算定された株価か
- 誰の立場から算定された株価か
- どの時点を基準にした株価か
- 売主と買主の税務関係に使える株価か
- 予定価格との差をどのように説明できるか
例えば、少数株主側の株価として配当還元方式により300円と算定されていても、その金額が買主にとっての取得価値まで表しているとは限りません。
税務評価額が300円だから、300円を超えて買ってはいけないということではありません。一方で、税務評価額より高い価格なら自由に支払ってよいということでもありません。
2,000円で買い取る場合には、300円との差がなぜ生じるのか、買主側を含めて税務上どのような影響があるのかを確認します。
取引後の持株割合と
支配関係を確認します
買取価格を検討するときは、何株を取得するかだけでなく、取引によって何が変わるのかを確認します。
- 買主の持株割合は何%から何%になるのか
- 議決権の過半数を超えるのか
- 3分の2以上になるのか
- ほかの少数株主は残るのか
- 最終的に100%取得を目指しているのか
- 株主を集約することで、どのような効果があるのか
わずかな株式の取得でも、それによって重要な持株割合を超えることがあります。反対に、買い取っても支配関係がほとんど変わらないこともあります。
2,000円という提示価格に、支配権の取得・強化や株主集約の効果が含まれているのかを確認します。
DCF5,000円も、そのまま
買取価格ではありません
DCF等による株式価値は、会社の将来の収益力などから会社全体の経済価値を考えるための数字です。
しかし、DCFで1株5,000円と算定されたから、少数株主の株式を必ず5,000円で買い取るわけではありません。
DCFの結果については、少なくとも次の点を確認します。
- 事業計画や将来キャッシュ・フローの前提
- 割引率や継続価値
- 余剰現預金、有利子負債、非事業用資産
- 会社全体の価値と1株当たり価値の関係
- 支配権や少数株主としての立場をどう考えるか
5,000円が会社全体を100%取得する場合の価値を表しているのであれば、少数株式の取引価格とは前提が異なる可能性があります。
DCFは2,000円が高いか安いかを考える有力な材料ですが、それだけで買取価格が決まるわけではありません。
相手の提示価格も
重要な判断材料です
2,000円は、少数株主が実際に売却へ応じる条件として示した価格です。
その背景には、株式の取得価格、過去の配当、会社の利益や資産、将来の配当への期待、過去の買取価格、他の株主への提示価格、交渉経緯などがあるかもしれません。
相手が希望しているだけで、2,000円が合理的な価格になるわけではありません。しかし、実際に株式を取得するためには、相手が売却へ応じる価格も無視できません。
税務評価額とDCFだけを計算しても、その金額で相手が売らなければ取引は成立しないからです。
税務上確認すべき株価、会社の経済価値、相手が売却に応じる価格を並べて検討します。
過去の買取実績と
他の株主への条件も確認します
同じ会社で過去に株式を買い取っている場合には、その価格と条件も確認します。
ただし、過去の価格がそのまま今回の価格になるとは限りません。会社の業績や資産、売主と買主、取得する株式数、取引後の持株割合、買取りの目的が異なれば、価格が変わることがあります。
一方、同じような立場の株主から大きく異なる価格で買い取る場合には、その違いを説明できるようにする必要があります。
過去の買取実績は絶対的な基準ではなく、今回の予定価格を検討するための比較材料として使います。
2,000円で買い取るなら、
その理由を整理します
最終的には、次の事項を比較します。
- 売主側で確認すべき税務上の株価
- 買主側で確認すべき税務上の株価
- DCF等による会社全体の株式価値
- 取引前後の持株割合
- 買主が取得によって得る権利や効果
- 過去の買取価格
- 他の株主への提示条件
- 相手が2,000円を提示した経緯
- 代金の支払方法などの取引条件
そのうえで2,000円を受け入れる場合には、なぜ300円ではなく2,000円なのか、なぜ5,000円ではないのかを整理します。
例えば、相手が売却に応じる現実的な価格であること、買主に株式集約の効果があること、DCF等による会社全体の株式価値を下回ることなどが判断材料になる可能性があります。
ただし、これらの事情だけで2,000円が必ず妥当になるわけではありません。確認できた事実と資料に基づき、価格差の理由と税務上の影響を検討します。
提示価格が高いか安いかを、
数字の大小だけで決めません
税務評価額300円。
相手からの提示価格2,000円。
DCF等による株式価値5,000円。
この場合、2,000円は300円より高いから不適切とも、5,000円より安いから有利とも、直ちには判断できません。
誰が誰から買うのか。
取引後に何が変わるのか。
それぞれの株価は何を表しているのか。
価格差をどのように説明できるのか。
これらを確認したうえで、2,000円を受け入れるか、別の価格を交渉するかを判断します。
条件と資料が揃えば、
どの価格を中心に検討するかまで見解をお伝えします。
税務評価額と相手の提示価格が違い、受け入れてよいか分からない。
少数株主からの買取価格を相談する
税務評価、会社の経済価値、取得後の持株割合、交渉経緯から整理します。
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